スキルベースルーティングとは?顧客満足度を高めるコールセンターの鍵

こんにちは、この記事を担当する久保です。これまで長年、企業の音声インフラの保守・運用や顧客サポートに携わり、特にVoIP(インターネットを使った通話技術)や、通話制御の要となるSIPプロトコルに関する知識と経験を深めてきました。
本記事では、その知見をもとに、コールセンター運営の効率化に欠かせない「スキルベースルーティング」について解説します。多言語対応や専門性の異なるオペレーターをどう最適に振り分けるか——現場での実例も交えながら、わかりやすくお伝えします。
スキルベースルーティングとは?
スキルと属性に基づくルーティングの基本
スキルベースルーティング(Skill-Based Routing, SBR)とは、コールセンターにおいてオペレーターのスキルや属性(例えば、言語能力、専門知識、経験年数など)に基づいて、顧客からの問い合わせを最適なオペレーターに振り分ける仕組みです。これにより、顧客のニーズに対して、最も適切な知識や経験を有するオペレーターが対応することが可能となり、結果として顧客体験の質が飛躍的に向上します。
従来のコールセンターでは、顧客からの問い合わせを着信順や単純な部門分けにより振り分けていましたが、これでは問題解決に時間がかかったり、顧客満足度が低下したりするケースがありました。
たとえば、特定の商品に関する技術的な問い合わせに対して、その知識がないオペレーターが対応すると、何度も担当が変わる、回答に時間がかかる、といった不満を引き起こします。スキルベースルーティングを導入することで、より適切なマッチングが可能になり、対応のスピードと質が大幅に向上します。
スキルベースルーティングは、以下のような要素に基づいて構築されます。
スキルプロファイルの定義
各オペレーターのスキル、資格、言語能力などを一覧化し、業務に直結する内容で分類・登録します。たとえば「製品Aの操作に関する知識」「英語対応可」「障害対応経験あり」など、具体的なスキルの洗い出しが必要です。
顧客ニーズの分類
問い合わせ内容をスキルカテゴリごとに分類し、IVRやチャットボットなどの仕組みを通じて、顧客のニーズを自動的に把握・分析します。分類の精度が高まれば、より正確なルーティングが可能になります。
マッチングロジックの設計
問い合わせ内容とスキルセットの照合ルールを構築します。優先度の高いスキル、同等スキル保有者の数、待機状況などを考慮して、最適なマッチングが行われるようにします。
最適なスキルと属性の重要性
スキルマッチングの効果
コールセンターでは、顧客のニーズを正確に理解し、迅速かつ的確に対応することが求められます。そのためには、問い合わせ内容に対して最も適したスキルを持つオペレーターが対応することが極めて重要です。適切なマッチングが行われることで、対応の質が均質化され、顧客にとって一貫した体験を提供できます。
例えば、クレジットカードのトラブル対応には金融知識が必要であり、医療相談では専門用語の理解が求められます。これらに対して、適切なスキルを持たないオペレーターが対応すると、解決までの時間が長くなるばかりか、誤解やクレームのリスクも高まります。さらに、オペレーター自身のストレスや離職リスクも増加します。
スキルベースルーティングを導入することで、以下のようなメリットが得られます。
顧客満足度の向上
専門的な問い合わせに対して、専門知識を持つオペレーターが対応することで、信頼感が生まれます。顧客は「わかってくれる人が対応してくれた」と感じることで、安心してサービスを継続する意欲が高まります。
対応時間の短縮
最初から適切なオペレーターに接続されるため、一次対応で解決できる割合が増加します。これにより、再コールや担当のたらい回しが減少し、運用コストの削減にも寄与します。
業務効率の向上
オペレーターが得意分野に集中することで、ストレスの少ない環境を実現できます。また、無駄なエスカレーションや確認作業が減少し、対応品質も安定します。
新人とベテランのスキル活用法
経験に応じた役割分担
新人とベテラン、それぞれのオペレーターには異なる強みがあります。スキルベースルーティングを導入することで、それぞれのスキルを最大限に生かした役割分担が可能になります。また、スキルベースルーティングは単なるスキルの管理にとどまらず、人材育成や業務継続計画(BCP)にも大きく寄与します。
新人の活用方法
新人は最新のITツールの操作に慣れており、多言語教育を受けているケースも多く、多様な文化への理解もあります。また、固定概念にとらわれない柔軟な思考で、顧客との新しいコミュニケーションを提案できる可能性もあります。
また、よくある問い合わせやFAQ対応、チャットなどの即時対応が求められるチャネルに適しています。加えて、適切な教育体制と組み合わせれば、徐々にスキルの幅を広げる設計も可能です。
ベテランの活用方法
ベテランは長年の経験から、複雑でセンシティブな問い合わせへの対応に長けています。特にクレーム処理や感情的な顧客への対応において、冷静さと交渉力を発揮できます。
解約防止やクレーム処理、VIP顧客への対応など、企業の評価に直結する重要な業務を担当できます。また、新人のOJT(On the Job Training)にも適しており、教育者としての役割も担います。
このように、スキルベースルーティングを活用すれば、新人とベテランそれぞれにふさわしい業務を自動的に割り振ることができ、組織全体としてのパフォーマンスを最適化できます。さらに、業務の偏りや属人化を防ぎ、安定した業務遂行体制を築くことができます。
多言語対応による顧客満足度向上
グローバル対応の重要性
近年、グローバル化の進展により、さまざまな国や言語を背景に持つ顧客からの問い合わせが増えています。多言語対応ができるかどうかは、企業の信頼性を左右する重要な要素です。特に、観光業、EC、クラウドサービスなど国際展開を行う企業にとって、多言語対応はもはや「あると良い」ではなく「必須」の機能となっています。
スキルベースルーティングを利用すれば、言語スキルを持つオペレーターに自動的に振り分けることが可能です。たとえば、英語、中国語、韓国語、スペイン語などのスキルを登録しておけば、該当する言語で問い合わせがあった際に、そのスキルを持つオペレーターに自動でルーティングされます。これにより、国際顧客への対応品質が飛躍的に向上します。
この仕組みによって、以下のような成果が得られます。
顧客ロイヤルティの向上
母国語での対応は安心感と信頼を生み、リピーター獲得につながります。とりわけ、高価格帯やサブスクリプション型サービスでは、この差が明暗を分ける要因となります。
対応の正確性の向上
通訳を介さず直接対応することで、情報伝達のミスを防げます。専門的な表現や文化的な背景を踏まえた対応ができる点も大きな強みです。
対応時間の短縮
複雑な問い合わせもスムーズに進行します。特に、時間帯やチャネルを問わない国際対応において、この効果は顕著です。
導入と設定のポイント
効果を引き出すためのルーティング設定
スキルベースルーティングを最大限に活用するためには、単にシステムを導入するだけでなく、運用において以下の点に注意することが重要です。適切な設定がなければ、せっかくの機能が活かしきれません。
1.スキルの定義と登録
すべてのオペレーターのスキルを洗い出し、システムに正確に登録します。形式知だけでなく、属人的なスキルも見える化し、ナレッジ共有を促進します。
スキルの定義は定期的に見直し、更新する必要があります。新製品の登場、業務の変化に伴って、必要とされるスキルは変わるため、常に最新の状態を保つことが重要です。
2.スキル評価の継続的実施
オペレーターのスキルレベルを定期的に再評価し、昇格やスキル追加の反映を行います。これにより、適切な人材が適切な問い合わせを担当できる体制が保たれます。
テストや業務評価、フィードバックを通じて公正に判断します。場合によっては外部資格や顧客アンケートも活用します。
3.顧客ニーズの分類設計
問い合わせ内容を明確に分類し、IVRでスキルカテゴリに振り分けられるようにします。分類の粒度は業務によって最適化し、過不足のない形に調整します。
例えば「製品の不具合」「契約内容の変更」「英語での対応」など、具体的な分岐を設け、スムーズなルーティングを実現します。
4.ルールの優先順位と例外処理の設定
優先的にルーティングする条件や、回避すべき組み合わせなど、運用ルールを設けます。例えば「VIP顧客はベテランが対応」「過去にクレーム履歴のある顧客には特定の対応者を避ける」といった例があります。
担当者の不在時や満席時に備えたバックアップルートも構築します。これにより、顧客の待機時間や放棄率を抑えることができます。
まとめ
スキルベースルーティングは、もはや単なる「問い合わせの割り振り機能」ではありません。現代のコールセンターにとって、人材を適材適所に配置するための中核的なインフラと言っても過言ではないでしょう。
導入のメリット
- 顧客満足度(CSAT・NPS)の向上
- 対応時間の短縮・一次解決率の向上
- オペレーター満足度の向上、離職率の低下
- 対応品質の平準化と属人化の解消
- 多言語・専門対応の効率化
企業が取るべきアクション
- 現状分析:既存のオペレーションを棚卸しし、どの業務にスキル差があるかを把握。
- スキル定義:オペレーターごとの強み・経験を可視化し、スキルタグを整備。
- システム選定:スキルベースルーティング機能を持つクラウド型PBX・CTIの導入を検討。
- スモールスタート:一部業務で試験導入し、成果を確認。
- 全社展開と改善サイクル:効果測定を通じてスキルベースルーティングルールを継続的に見直す。
スキルベースルーティングの導入は、単に技術の導入というよりも、組織として「人の力」を最大化する経営戦略でもあります。顧客接点が企業ブランドを左右する時代において、ぜひスキルベースルーティングの力を活用し、持続的な顧客価値の創出を目指してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. SBR導入にはどれくらいの期間がかかりますか?
A1. 企業規模や業務範囲によりますが、一般的には2〜6ヶ月程度が目安です。最初の段階でスキル定義とシステム選定を丁寧に行えば、スムーズに導入可能です。段階的なスモールスタート(例:一部部署のみ)も推奨されます。
Q2. スキル情報の管理が煩雑では?
A2. 確かに導入初期は工数がかかりますが、多くのコールセンター管理システム(CTI)やCRMにはスキル情報の一括登録・編集機能があります。また、スキルマトリクスをExcelなどで管理し、定期更新する運用フローを整えることで、効率的に維持できます。
Q3. 人手不足でもスキルベースルーティングの効果は出ますか?
A3. むしろ、人手不足の時こそスキルベースルーティングは効果を発揮します。限られたリソースを最適配置することで、「少数精鋭」での対応が可能になります。たとえば、ベテランが高難易度対応に集中でき、新人はFAQなどの効率業務に専念できます。
Q4. AIやチャットボットとの連携は可能?
A4. 可能です。むしろスキルベースルーティングはAIとの連携によってさらに高度化できます。たとえば、チャットボットで取得した顧客の発話内容やキーワードを元に、ロジックを自動連携させることで、より正確なマッチングが可能になります。AIによるスキル判定や業務量予測との組み合わせも今後のトレンドです。
Q5. スキルベースルーティングの導入に向いている業種は?
A5. 以下の業種はスキルベースルーティング導入の恩恵を受けやすいため、導入の検討をおすすめします。
- 多様な商品カテゴリを扱うEC事業者
- 技術的サポートが必要なITサービス企業
- 複雑な手続きや知識を要する保険・金融業
- 多言語対応が必要な旅行・観光業
- 顧客対応の品質がブランドに直結する高級商材のメーカー



